CASE 03人形工房の営業部長

大判パネルで挑む節句人形の固定概念

モノづくりのまち・東大阪で、三世代にわたって人形作りを受け継いできた松よし人形。営業部長として全国を奔走し、販促に力を注ぐ面高有紀(おもたかゆうき)さんは「何のために買うのか?その根っこにある文化を伝えたい」と話します。伝統工芸とソクプリの大判印刷が交わる先にどんな未来を見ているのか、伺いました。

面高 有紀さん

Interviewee面高 有紀さん

1971年、兵庫県神戸市生まれ。結婚を機に東大阪に移り住む。DTP黎明期の印刷デザイン業界で忙しく働きながら家業である松よし人形の販促ツール制作に携わり、2010年に転職。時代とともに簡略化されていく節句の文化を、人形を通じていかに伝えていくかに日々向き合い、卸営業だけでなくプロモーション全般の指揮を執る。

印刷デザインの世界から人形を売る立場へ

松よし人形は昭和35年ごろに創業されたとのこと、面高さんはどんな経緯で人形の営業に携わることになられたのでしょうか。

創業者の故・小出康雄会長が義理の父なんです。小出会長には3人姉妹の娘がいて、長女が現・社長、三女が私の家内です。

ご親族なんですね。

そうなんです。長女は社長業と商品企画、次女が工房で縫製作業をしていて、店舗は家内が店長として運営をしてますので、私はサポートをしています。メインは販売卸向けの営業ですが、販促ツールをデザイナーさんと一緒に作ったりなんかも。

販促ツールの制作も担われているんですか!

実はもともと印刷デザインの業界にいたんです。その頃から印刷物を通じて、この工房を外部的に支援していました。

かつては同業者だったんですね!家業に入られたのは何かきっかけが?

15年前に、小出会長から「印刷デザインのノウハウを工房で活かしてみたらどうや」と声がかかったんです。その頃はWEBサイトもホームページビルダーで作っていた時代で、これからWEBも含めて販促をもっと考えていこうという中で、経験を活かして自分でもうちょっと何かできないかなという思いもあって。

お義父さまがきっかけだったんですね。ご自身も印刷デザイン業界にいらした面高さん、ソクプリとはどのように出会われたんでしょうか。

インターネットで検索して見つけました。取りに行ける近さで、値段も非常にリーズナブルですし、選択できる紙の種類がたくさんあるので、TPOに合わせて印刷できるのがいちばんのメリットかなと思ってます。

印刷されたものはどんなふうに活用していただいていますか?

例えば、人形の作り手を紹介するパネルにして掲示しています。アルミフレーム付きパネルと一緒に注文するとセットした状態で納品してくれるので、展示会でもそのまま掲示物に使ったりしてますね。

  • 綺麗に並べられた人形の後ろに飾られているエコ イレパネ/アルミフレーム付きパネルの写真

店舗にはエコ イレパネ/アルミフレーム付きパネルに入れたポスターの掲示が。

そういえば、展示会のブースって掲示物がずらっと並んでるイメージがありますね。

マンツーマンで対応しきれない数のお客さんがいらっしゃるので、助かってます。展示会で飾ってたポスターが欲しいと販売店さんからご要望をいただいて、販促グッズとして配布したこともありました。

販売店さんからそういうふうに求められることがあるんですね。

いや、うちみたいな小さなメーカーが、ポスターやPOPを自分たちで制作して提供してるのは人形工房では他にあまりないんじゃないかなと思います。

人形を売ることのむずかしさ

こういった対象が限定的な商品を売っていくって、難しいのではないですか?

特殊な商品ではありますよね。まずは初節句という限られた機会にアプローチをするんですけども、少子化でその市場って小さくなっていってるので。

少子化......そうですよね。

なので初節句をもうちょっと拡大解釈して、お雛さんを持っていない大人に向けてアプローチをしようという業界全体の動きもあります。クリスマスツリーのように、季節を彩るアイテムとして持っておきませんか?と。

あぁ、なるほど。私の実家では、長女の姉が初節句の時に七段飾りを買っていたので自分の雛人形はないのですが、同じような人がたくさんいるんですね。

そうです。卸売りがメインだった時代から、WEB通販などインターネットが中心になって、消費者個人に直接アプローチできるようになりました。そこでひとつ、今までと違う世界が広がってるんです。

違う世界、というと?

今の消費者はSNSで情報を集めて、かわいいよね、面白そうやなと思えるものに出会ってから実店舗に行く。これまで重視されていた作りや素材の良さ以上に、見た目の可愛さで判断されます。「うちのインテリアに合うわ」とか、全体的なイメージで選びはるんです。

  • 松よし人形の店舗外観
  • 目を奪う風格のある外観

大阪府東大阪市荒川に構える店舗。モダンで洗練された内観にマッチした人形たちがずらりと並ぶ。
雑貨販売もしており、いつでも足を運んでいただけるような親しみのある店舗づくりに。

伝統工芸にも現代的な感性が求められるんですね。

そうですね。うちでは例えば衣裳の生地にイタリアンシルクを使った人形もありますが、こういう風合いや色のニュアンスを写真で伝えるのは難しい。まずは松よし人形の世界観とかデザイン性に目を向けてもらうフックとして、ビジュアルツールが役に立ってるのかなと思います。

今は雛人形もすごくモダンなんだなって驚いてます。こういう、パッと見た時の印象や目をひく可愛らしさを入口として販促ツールを作っている。

言葉で説明するよりもビジュアルでどう見せるか、というところから手作りの良さを再認識してもらえたらとアプローチをしてるんですけど......「子どもの時に買うものだ」っていう固定概念が強いので、なかなか難しいんですけどね。

  • インタビューに答える面高 有紀さん
  • 白と赤の綺麗な雛人形が並べられている写真

親しみの先にある、人形を買う意味

時代に寄り添った人形作りと販促を通して、昔ながらの固定概念を覆す。すごく難しいことに取り組まれてるなと感じているのですが、具体的にはどんなアプローチをされていますか?

まずは手仕事の楽しさとか、和小物の良さとか、そういう切り口から人形というものに触れてもらおうと取り組んでます。

と言いますと?

工房見学を開いて「本当に手作りでやってるんですよ」ということを説明したり、ワークショップを積極的に開催したり、ここ4、5年で雑貨を販売したりして、いつでも店舗に入ってきてもらえる状態を作っています。夏休みには子どもさん向けの企画をやったり、定期的にずっと。

いろいろチャレンジされてるんですね。集客は順調ですか?

そうですね。それと、全国から修学旅行生を受け入れてるんです。年間で20校ぐらいかな。

修学旅行生!年に20校も、学校に直接アプローチをされて...?

モノづくり観光をサポートしてくれるNPO法人があるんですよ。ものづくりのまちを見学して体験してみよう、というのを旅行会社とタッグを組んでやってはるんです。

そういった仕組みがあるんですね!初めて知りました。

こうやって直接消費者と触れ合って、日本が誇る伝統工芸に触れてもらう機会をつくることに、従来の卸営業と並行して力を注いでいます。ワークショップを通じて、最終的には雛人形に、という流れを持っていきたいとは思っています。

  • 店舗前に置かれた10月のワークショップを知らせる看板
  • 可愛らしい球体関節人形「あや」が並べられた様子

店舗では定期的にワークショップを開催している。
ライフスタイルに合わせて変化を楽しめる球体関節人形「あや」は、「より身近に感じるお人形」がコンセプト。

文化への親しみっていうところからのスタートですね。

そうですね。まずは親しんでもらって、その先で具体的にどういうきっかけづくりができるのかは、まだこれからではあるんですけどね。「何のためにこれ買うの?」っていうのを理解してもらえるように。

なぜ?が伝わらないと、次につながっていかないですもんね。

そうなんです。とは言え人形の需要はやっぱりなだらかに減少傾向で、これを上げることってなかなか厳しい。いかにその流れを緩やかにするか、ということだと思っています。

伝統的な技術を商業ベースで守っていくということの大変さを、しみじみと感じます。

本当はこの業界って、父ちゃん・母ちゃん、自分の三世代で成り立つぐらいの業界なんですが、それを商業ベースに乗せてやっていくには厳しくなってきてますね。

さまざまなことが複雑に絡みあって難しくなってきてる中で、伝統工芸を守る取り組みに対して印刷ができることを私たちもますます考えていきたいと思います。

和裁の技術って、いちど途絶えちゃうと二度と戻ってこなくなっちゃうんで、そういう技術を残すためにも固定概念を崩す販促に取り組んでいきたいですね。

  • 様々な人形が並べられた様子
  • 脈々と脈々のコスプレをした女の子の人形

人形工房には欠かせない、先代より継承し続ける和裁技術。
EXPO 2025 大阪・関西万博のヘルスケアパビリオンで人形を展示。

株式会社松よし人形 面高 有紀さんが活用した商品はこちら

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